微分積分席替え気分@東大

河合塾本郷校での浪人を経て東大に合格した文一生による、のんびりとした日常のブログ。

『ペスト』

久しぶりの読書感想、今回はカミュの『ペスト』です。

 

これは、実は1週間ほど前の時点ですでに読了していたのですが、記事にまとめるのは遅くなってしまいました。従来どおりの流れでまとめていきます。

 

・ビフォー

この本は、3月の中旬頃に行われた、川人ゼミの次年度に向けた話し合いの席で頂いたものです。川人先生は懇親会やゼミ会議の際に、しばしば学生へ本をくださるのですが、これもその一つですね。

 

3月の時点で新型コロナウイルスの感染拡大が問題になっており、その過程でこの『ペスト』もTwitterなどで話題に上がっていました。現状とこの作品で描写される感染症拡大の過程を重ねてみるのは非常に面白そうだということで、僕としても気になっていた矢先、こうして先生から直接本をいただけたのは良いめぐり合わせでした。

 

不条理文学の代表作の一つということくらいしか知らなかったので、「どこまで現実との関連を見いだせるか」ということに純粋な関心を持ちつつ、不条理が人間を蝕んでいく過程を小説内でどう描写するのかに注目しながら読んでみようかなと思っていました。

 

・気づき

まず感じたのは、現在と重なるような状況描写がかなり多いなということです。

 

ペストの発見からの行政の対応から描写されていきますが、後手後手に回る対応や、市民の初期における危機感の低さなどはまさに今の様子を見ているようでした。

 

また、病気が蔓延していく中で、外部との連絡が遮断され普段どおりの生活が営めなくなってきた市民が不満を爆発させていったり、見えない不安にかられる中で、一時的な快楽を求めていったりする様子も非常に興味深かったです。

 

そして、そうした不条理に屈する様子と同時に、メインの登場人物たちを中心に、ペストに対して反抗していく様子が描かれます。現在も当然ながら各方面で感染拡大を防ごうとする対策が打たれ、世界中が協力してコロナウイルスの封じ込めに向けて動いていますが、小説内でも、次第にペストに対して戦う人が増えていく様子、またメインの登場人物がひたすら職務を果たしていく姿が印象的でした。

 

個人的に気になったのは、いかに引用するところからの展開です。

 

しかし、人間は、あんまり待っていると、もう待たなくなるものであるし、全市中のものは全く未来というもののない生活をしていたのである。

 

これはペストの流行が始まってから8ヶ月ほどがたったときの描写です。冬になれば収まるかという期待と裏腹に広まり続けるペストに対して市民たちが披露し、絶望の様相を呈してきているところでした。

 

しかし一方で、この時期にあって、患者たちが当初のように虚脱や狂乱に陥ることが減り、自分自身のために最良な方法、すなわち医師の処置に積極的に協力するようになって行く様子も描かれています。

 

はじめこの記述を見たときは、単に人々が疲労から反抗する意思さえ失った段階だと感じました。実際、さらにこのあとでは、クリスマスの描写を通して生きる執着としての希望以外を失った市民や街の様子を描いています。

 

しかし、逆に言えば、ほとんどの希望を失った中で、性に対する執着だけは絶やさず、そのため自分を処置する医師に対しても素直になっていくというのが面白いと感じました。

 

現在の様子を考えても、ついに緊急事態宣言が発令され、最近の自粛ムードに更に拍車がかかってきているところです。そうした状況による退屈さや失望が深まっていく中で、同時に、私達の間にはっきりと意識できる形で重症化ヤシの木券が知らされていくようになっています。

 

こうした状況下において、自分のみを守り、また近い関係の人を守ることにもつながるような行動を取るべきだという流れが生まれていることは、やはり危機的状況や不条理に直面してしばらく経ってきた時期という意味で一致しているのではないかと思いました。

 

・Todo

まずは今後の現実世界の動向に注目していきたいです。最近気になっているのは、以前内閣府ユース匿名報告員の記事でも書いたように、特定の団体や性格を持つ集団(若者など)に対する批判についてなので、そうした事も含めてこの作品の動きとの違いを見ていけたらなと思います。

 

また、不条理文学の代表作をもう少し読んでみようかなと思います。すでにカフカの『変身』は読んだので、まずその読書感想をまとめつつ、カミュの『異邦人』などにも行ってみたいですね。

 

 

 

 

 

 

それでは~